最近の音大事情
2022年6月に拙著『音大崩壊』を出版して2年が経ちました。この本は決して音大崩壊を予言する本ではなく、そうならないためにはどうすべきかを書いた本です。しかし残念ながら、この本で提言したような取り組みが行われることはなく、事態はますます悪化し、あたかも「音大崩壊」を予言したかのような様相を呈しています。
上野学園大学が2021年度以降、学生募集を停止したところまでは拙著で触れていますが、その後も全体としての音大の衰退基調は相変わらずです。日本私立学校振興・共済事業団によれば、音楽学部の定員充足率はR(令和)3;94.3%→R4;93.7%→R5;90.9%と歯止めがかかっていません。多くの音楽大学で定員割れが生じていると考えられます。
この傾向はクラシック音楽に強いこだわりを持つ音大ほど顕著で、定員を確保できるか否かは、学生に提示するメニューの多様さが大きく影響しているようです。例えば私が勤務する名古屋芸術大学では、ポップスロック、ミュージカル、声優など14のコースに分かれ、同じ音楽でも多様な学びができる工夫がなされています。その中でも最近人気なのが「音楽総合コース」。このコースの特徴は、最初の2年間は複数のコースの科目が選べ、実技も複数同時に選択できることです。3年次に進級する際は、コースを絞ることも、総合コースで幅広く学ぶこともできます。「ピアノを習ってきたけれど、声優にも興味がある」といった学生に選ばれることが多いようです。
最近は多くの音大でコース多様化の動きが広がっています。具体的には大阪音楽大学の「ミュージックビジネス専攻」(22年度)、国立音楽大学の「音楽データサイエンス・コース」(23年度)、昭和音楽大学の「声とことばの創造表現コース」(24年度)などです。新しい学科・コースは新鮮さがある一方、最初の数年は手探り状態になりやすい点には注意が必要です。受験生のみなさんは、オープンキャンパスなどで内容をよく確認するといいと思います。