「音大卒」は武器になる⑤
―Mさん―
このシリーズ最後にご紹介するのはチェリストのMさん、25歳です。仙台のご出身で、中学3年の時に東日本大震災で被災し、家は半壊しました。そんな困難を乗り越えて、現在演奏家の道を歩んでいます。
チェロの演奏家というと、オーケストラやソロでリサイタルするイメージだと思いますが、Mさんの場合は少し違います。自立することを強く意識し、学生時代から美術館、病院、温浴施設などで積極的に演奏活動を行いながら、音楽教室講師や音楽とは関係ない仕事も行うパラレルキャリアです。
そんな彼女の仕事ぶりが目にとまり、テレビ番組での楽器演奏の吹き替えや役者さんへの演奏指導の仕事が舞い込むようになりました。大学院生の時のことです。今では出演・指導作品は10作以上。しかも小さい頃のピアノが役立ち、ピアノや弦楽器全般の音楽監修の依頼も来るようになりました。
しかしその矢先、コロナ禍が酷くなり、演奏の仕事はテレビ関係を除きほとんどなくなってしまいました。これでは生活ができないと、音楽に関係のない仕事を思い切り増やす決断をします。それでも凄いのは、「いつか」を信じ、働きながら猛練習を積み重ねたことです。公の場での演奏ができなければできないほど、「演奏家として生きたい」という気持ちが強まったといいます。
こうした努力が実を結び、コロナ禍が落ち着いてきた21年10月、チェロのソロリサイタル開催に漕ぎ着けることができました。伴奏者は仙台にお住いのお母さま。深く心に刻まれる親子共演となりました。
じつはお母さまは地元仙台で積極的に音楽活動を行っているピアニスト。そのような環境がMさんを育んだ面はあるものの、ご本人の「自立せねば」との強い思いにはいつも感心させられます。学生時代から「音楽での自立は大変」とは思いながらも、「それでも音楽が好き!」との強い気持ちがあったからこそ拓けた道だと感じます。学生時代、ただ真面目に学んでいるだけでは道は拓けません。積極的に外に目を向けることが大切です。