ピアノ弾きの日常
「作曲家vs演奏家、
ツラいのどっち?」
書く仕事と弾く仕事。
どっちがツラいか。
若い頃、このどーでもいー命題について、作曲科卒の友だちと言い争った事が。
僕はピアノ科卒。
当時は演奏者サイドね。
ひょんなことからゴングが鳴ったわけ。
ボク
「あーあ、作曲はいいよな~。
積み上げたものが、きっちり相手に伝わるじゃん。
オレらなんて悲しいよ。
どんだけ練習して積み上げても、本番で失敗したら全部オジャン!
その苦しみ、君らにはわっかんないだろーなー。」
作曲の友だち
「いやいや、なに言ってんデスかっ。
演奏の人たちって、本番の日が来たらとりあえず終わるぢゃないですか。
打ち上げとかやっちゃって、盛り上がったりなんかして。
作曲は書けないと終わらないんスよ。
しめきりなんてあったって、思いつかなきゃ終わらないんだから。
スミマセンスミマセン!
もうちょっとデス!
なんてソバ屋の出前みたいなこと言う、あの苦しみといったら。」
ボク
「ソバ屋だめでしょ。さっさと書きなさいよ!」
友
「いやいやいや、誠実であるほど、ギリギリまで悩むもんでしょ。
少しでも良い曲にしようと悶絶する、徹夜の苦しみ!
それを知らないから、そーゆーことがいえるんデスヨ!
しかもですよ!
提出しても、ダメだし出たらやり直しデスよ。
へたすりゃ1からやりなおし!」
ボク
「いやいや、やり直しできない方が不幸でしょ?
演奏家の方がツラい!」
友
「いやいやいや、わかってないなー」
ボク
「いやいやいやいや!わかってないなー」
そして、両方を生業とする今思う事。
友よ、ごめん、、、。
おれが間違ってたよ。
もちろん演奏の地獄だってある。
ありとあらゆる地獄を見た人がいる、ここに。
でもね。
とりあえず日本のお客様は、終わったら拍手してくれるのよ。
どんなにひどくても、である。
優しいなぁ。
楽屋には人がわざわざ挨拶に来てくれて。
ずらっと並んで、人間としてダメになりそうなくらい、みんな褒めてくれる。
良かった時は「感動したー」
あんまり良くなかった時は、「楽しかったー」
ひどかったときは、「がんばってたねえ」
聴くに堪えない時は「衣装おしゃれじゃん!」
優しいなぁ(泣)
けれど!
作曲はこうはいかない。
特にアルバムや劇伴の制作。
提出してもクライアントのダメが出たら、やり直し。
エンドレス地獄。
中には無理難題を言ってくる場合も。
でもクライアント様は神様です。
これはツラいよー。
つまり。
これを演奏に置き換えると、どうなるかっつーと、、、、、、、、
ポワンポワン、、、(妄想タイム開始)
ピアノリサイタルにて。
ジャン!
弾き終わる。
しかし拍手無し、、、、、
しーん。
お客さん、客席から座ったまま大声で言う。
「ありがとうございまーす。
全体良いと思うんですけどねー。
あのー、すみません再現部のところ。
なんつーか、もうちょっと、こー、、
なんか違う解釈ないっすかねー。
いや、悪くないんだけどね。何かこう、意味合いが欲しい、ってゆーか。」
、、、、、
わかりましたー、、。
がんばりまーす、、。
仕方ないので、楽屋に戻って練習。
お客さん、みんな待ってます。
でもって、もう一度聴かせる。
またもや拍手なし、、、、
「そーすねー、よくまとまってるんですけどねえ、、、、、
他の人、どーデスか?」
「大筋良いんだけど、一応違う方向性も聴いてみたいな。」
「おれはねえ、一回キー変えてみた方がいいとおもうんだよね」
え?
キー替え?
ショパンを?
出た、、、無理難題!
でもでも。
クライアントは絶対。
はいー、、、、、
かしこまりましたー。
すごすごと楽屋にもどる。
ここまで来て、いまから移調とは、、、
けれど、とりあえず聴かせない事には、、、、
楽屋で必死にさらう。
目を血走らせて!
時々時計に目をやりながら。
しばらくすると、客の声が舞台の方から聞こえてくる。
「すみませーん!
飯田さーん!
お具合どーですかー?
そろそろ終電やばいんですけど。
皆さん待ってるのでー。
ねえ、まだですかー?
おーい!イーダさーん!」
(妄想2分)
、、、、、
コッワー!
無理だムリムリ。
やっぱり、演奏の方が、、、、、
と思うのは、しめきりに苦しんでるときね。
曲ができた瞬間は、、、、
ハイ、この仕事やめられませんっ!

前回演奏のお仕事おすすめです、なんて言ってしまいましたが、もちろん辛いことだってあります。
ただやはり演奏者って、なんとなーく優遇されてます。
特にピアニスト!
楽器は運ばなくて良いし。
チューニングは人がやってくれるし。
終わったら人が片付けてくれるし。
それに、どんなに貧乏でも本番ではスタインウェイが弾ける!
心底ありがたく思います。
作曲や編曲の仕事は大変ですが、上手くできた瞬間の快感は何物にも変え難い。
なんと言ってもその音楽の創造主はやはり譜面を書いた人という気がします。
それに、エッセイでは面白おかしく書いてますが、作編曲者の扱われ方って、立場によって全然違うのかな、と。
エラくなれば、どんなにひどくても褒めてくれますよ、きっと。
それが幸せかどうかは、別ですけどね。