ピアノ弾きの日常
「奇跡のコンサート」
コンサートを長くやってると、いろんなことが起こる。
その日は地方へ。
山中にある素晴らしいホール。
そこでリサイタルさせていただいた時の不思議な出来事。
ツアー会社の企画による日帰りバスツアー。
100名足らずの団体ツアーで、ニッコウキスゲなど美しい景色を観光しながら、ホールに到着。
隣接している森の素敵なホテルで遅めのランチを食べた後、上質なホールでよく知らないクラシックピアニスト(つまりボク)の生演奏を聴いて、東京へもどる、みたいな日程のツアーで弾かせていただくことになってた。
前の日にホテル入り。
朝から準備して、バスのツアー客をお待ちしてた。
午後2時には到着予定のバス。
なのに待てども待てども、、、
来ない。
おっかしーなー。
そこへスタッフから連絡が!
「バスがかつてないほどの渋滞に巻き込まれ、大幅に遅れてます!」
あらら、こりゃ大変!
ただでさえ、午後2時の遅いランチ予定。
なのに、その時間には着けず!
かといってそんな大人数を食べさせられる、きちっとしたレストランをコース途中で急に手配できるわけもなく。
先も急がないと、日帰りできなかったら大変!
お客様たちは、お菓子などを食べながら飢えをしのいでいるらしい。
うわー。
まるで遭難、、、、。
待って待って待ちくたびれて、、、、
バス、到着しました。
時間は、、、午後5時!
お客さん、疲労限界。
お腹空きまくり。
ストレス値急上昇、、、、。
しかーし!
さらにふりかかる災難!
隣接ホテルのレストランは、既にディナーの時間帯。
宿泊客が使うため、ツアー客は使用不可!
なぬー!?
じゃ、どこで食べんのよ~?
結局ホールのロビーで、ビュッフェスタイルで食べる事に。
ビュッフェと言えば聞こえはいいけど。
要するに、立って食べろ、つーことですわな。
お客さん、ピキピキ。
険悪な雰囲気、、、、、。
これで聴かせられる演奏がヒドイとなったら、ただじゃすまねーぞ!
ってシチュエーションですよね、これ。
ひぇー!!!
やばい!
いいだくん、史上最大のピンチーーーー!
もし、演奏を気に入ってもらえなかったら?
ビュッフェで使ったフォークが飛んでくるかも、、、
手がかるーく震え始めるこの感じ、、、。
やだ、、
逃げたい、、、、。
ところが、このコンサート、奇跡が起きたのでした。
トーク付きのコンサート。
まず僕は深々と頭を下げる。
「大変お疲れ様でございました。お待ち申し上げておりました。」とねぎらいの一言から。
そして、緊張の1曲目。
ドビュッシーの映像第2集「葉ずえを渡る鐘の音」
森の木々の情景などを幻想的に表現した曲ですね。
実はこのホール、森に囲まれてる。
壁面がほとんどガラス張り。
夏の良い季節だったので、スタッフさんがちょっと窓を開けてくれてた。
でもって、この曲のタイミングで。
森のざわめきが、そよ風に揺れてサワサワー。
鳥の声がチュンチュンって。
ホールに響く気持ちの良い音。
わー、、、、
雰囲気ピッタリ!
効果抜群!
僕も弾いてておおー!ってなる。
しかし、偶然はこれだけでは終わらなくて。
プログラムは進み、同じくドビュッシーの「亜麻色の髪の乙女」
すると、ちょうど外は夕暮れ。
夕日がホールに射し込む。
でこの曲に合わせるように、「カナカナカナ、、、、」
ヒグラシだ、、、。
ぴったりじゃん!
僕、自分の演奏に感動してた(こらこら)。
しかし、偶然はこれだけでは終わらなくて。
プログラムは進んで、ショパンの「雨だれ」
まあまあ予想出来る人、いると思いますが。
そう!
まさかまさかの。
シトシト雨が降り出した!
マジかよ神様!
できすぎだぜ。
山の天気は変わりやすい、っていうけどさ。
さっきまで夕暮れの光が入ってたのに。
すっかり闇に包まれた森に響く静かな雨音。
ピッタリすぎる、、、、。
しかーし!
偶然はこれだけでは終わらなくて!
まだあるの?
ってぐらい、偶然のオンパレード。
プログラム最後は、ムソルグスキー展覧会の絵「バーバーヤガーの小屋」。
魔女を表現した恐ろしい音楽。
ここでなんと。
そーです。
カミナリが!
ピカ!ゴロゴローって。
えー!マジで?
ムードばっちり。
山の天気は変わりやすいって、、、
いやいやいや、ありえん、、、
奇跡だ、、、、。
てなわけで、コンサートが終わりました。
お客さん大喝采!
ステージ降りてお客様にご挨拶。
「ちょっとあんたー、なんか良かったわよー!」
と握手したまま、腕を上下にブンブン振りまわすおばさん。
別のおじさんも。
「いやあ、カミナリピカピカってなってさー、すげー迫力だったよー!素晴らしい!」
ハハ、、、
僕の力じゃないんですけどね、、、、
と心の中でつぶやきながら。
ともあれ、良かったー、楽しんでもらえて。
ほっと一息。
命拾いとはこのこと。
帰りは、みなさんのバスで一緒に帰る。
お菓子なんかももらって、温かくお仲間に入れていただきました。
お客さんと一緒に帰る企画だったのね。
これで演奏会がダメだったら?
それは、まさに地獄行きのバス!
そう思うとゾッとするけど、やれやれ良かった~。
深夜無事東京に入った。
新宿の夜景をぼんやり眺める。
夢から醒めたような不思議な気分、、、。
今日の出来事はなんだったんだろう、、、。
できすぎですが、本当の話。
忘れられないコンサートに。
森の神様、ありがとう!

このコンサート自体は、随分前の話ですが、今でも忘れられない思い出です。
コンサートをやっていると毎日がイベントで、いろいろな事件が起こります。
もちろん、大失敗の事件だって何度もあります。
昔、自分たちのせいでトラブルに巻き込まれコンサートに遅れ、お客さんに帰ってもらった、なんてヒドい経験もあります。
若かったなあ。
綱渡りの人生ですが、でも毎日同じよりずっと楽しい。
はい。
演奏家というお仕事、オススメです。
毎日飽きません。
目指している方は、ぜひ頑張ってください。