アマチュア演奏家の楽しみ

初めての試験で同じレベルを受けたクララちゃんと。
2人ともトレビアンをもらいました。
40歳を過ぎた頃チェロを始めたのですが、長年ピアノを頑張ってきて見えなくなっていた、楽器を学ぶ初心者の気持ちを再発見できて新鮮でした。当たり前ですが、ゼロから始まって上達しかしないので楽しいのです。
周囲からは、ピアノの先生が今からチェロ? 時間あるの? など驚かれましたが、伴奏に行ったチェロクラスの雰囲気が余りに良くて、どうしてもやりたくなってしまいました。フランスはピエール•フルニエやポール•トゥルトゥリエがいた伝統のある国。特にチェリストはレベルが高く、初心者でも良い先生に巡り会えるチャンスがあります。
違う楽器をやってみるのは音楽家にとって面白い体験です。私はピアニストで、チェンバロもやりましたが、これらは同じ鍵盤楽器。ヴァイオリニストがヴィオラを弾くような感覚です。それより管楽器や弦楽器など、違うものに手を出した方がギャップがあります。
私がチェロでまず驚いたのは、右に行くほど低音になる点です。ピアノでは右に行くと高音と脳に擦り込まれているので、右に弓を移動すると音が低くなることに違和感を感じました。それからピアノでは、例えばドミソの和音はどのオクターブに飛んでも同じ幅なので、音をはずさないよう手の形をキープしながら跳躍する訓練をするのに対して、チェロでは高音になると指を寄せないといけない。これには参りました。
良い事は、音が少ないので暗譜が簡単。五線譜が1本しかなく、普段ピアノでは2段、室内楽では3段以上読んでいる身には驚くほど簡単です。しかし弓使いを覚えるのは大変です。あの短い弓で長いフレーズを歌うのですから、アップ、ダウンと変える、そのタイミングがめちゃくちゃになってしまうのです。因みにフランス語では「押す」と「引く」です。フェンシングみたいですね。
楽しいのはヴィブラート。ピアニストなら一度はやってみたい憧れのテクニックです。あれは表現の幅が広がりますねぇ! 逆に残念なのはペダルが無いこと。音を延ばすのにずっと弓を使うなんて、とても疲れる話です。

仲間とチェロ六重奏を組んでいます。
チェロを弾くことによって親近感が増した作曲家もいます。ポッパーやダヴィドフ、オッフェンバッハなんかもイメージが変わりました。またショスタコヴィチのソナタはピアノパートから見る時とチェロパートから見るのとでは全然景色が違うので驚きました。
レパートリーも少なくて、バッハなら「組曲」を聖書のように繰り返しお稽古します。ピアノのインヴェンション、シンフォニア、平均律、フランス組曲、イギリス組曲、パルティータ、イタリア協奏曲、半音階的幻想曲、ゴールドベルグ変奏曲…の膨大な量とは比べ物になりません。
数年して学校のオーケストラに参加することになった時のことです。ピアニストにはあまり馴染みがないオケ練習にワクワク。まずはヴィヴァルディの春ですが、配られた楽譜を見て唖然。ミばっかり。その後はシばっかり続いています。お次はモーツァルトの交響曲40番。これまたソがずっと続いている。これが名曲って? 譜面からの曲当てクイズとか絶対無理ですね。いつもひとりで完結しているピアニストには衝撃的な楽譜でした。
毎週レッスンに行くようになると、子供の頃を思い出します。「今週はちょっと忙しくて」と言い訳したり、「家ではちゃんと弾けてました」と弁解したり、自分がいつも生徒から聞いているセリフが思わず口から出てきます。YouTubeで見てカッコいい~と楽器を傾けて真似すると、先生から「余計な動きしないで」と即注意が入ります。あぁ、手を振り上げてショパンを酔って弾く生徒に私がいつも言うのと同じだわと、可笑しいやら恥ずかしいやら。それからは生徒を大目に見られるようになりました。

弦を抑える左手にタコができる事でさえ面白くて、
初めの頃は記念撮影していました。
また、ピアノとチェロでは自分に課している厳しさが全然違うことにも気がつきました。ピアノは、突き詰めても、いつも不安と不足を感じていますが、チェロは自分の精一杯を出せばいいやとすぐ大満足。純粋に楽しい。アマチュア万歳!
そして、「コンサートでお辞儀するときは弓はどうやって持つのかな?」「両手が塞がってるのに花束もらったらどうやって受け取るんだろう?」など、ありもしない妄想に耽ったり。自分でピアノパートを録音し、カラオケして遊んだり。
ピアノでアンサンブルをする時は、初回からほぼ出来上がっていることが当たり前ですが、チェロアンサンブルでは、「ここどうやって弾くの?」と仲間に聞いたりしながら少しずつ上手になるのを感じられます。
音楽をやる人のほとんどはアマチュアとして楽しんでいます。高みを目指して日々ストイックに努力する側から見る音楽の世界とは違って、それもなかなか素晴らしいものでした。