音大生にエール! 連載31 「芸術至上主義作曲家」~絶滅危惧種~の音大回想録|音大生就活ナビ

音大生にエール!

【連載31】「芸術至上主義作曲家」~絶滅危惧種~の音大回想録

二宮玲子です。ライフワークはオペラ作曲という、今の世の中では珍しい「芸術至上主義作曲家」。まさに変人の部類、『最後の秘境 東京藝大:天才たちのカオスな日常』(新潮文庫)で数年前に話題になった東京藝大卒です。新自由主義経済の時代を生きる現代の音大生には、私の話はあまり参考にならないかもしれません。何しろこれまでの人生、自慢ではありませんが、音楽以外の仕事をしたことがありません。(私の悲惨な就活に関しては、後の連載で述べる予定です)

女の子だから音楽をやらせたい 私の母は専業主婦で、私が幼いころから「これからの時代の女性は、男性と対等に経済的に自立しなくてはならない」と言い続け、「女の子だから音楽をやらせたい」と、ピアノを習わせました。この「経済的自立」と「音楽家」という二つの難題を背負い、人生の大半を送って来ました。そして大学で出会った恩師松村禎三先生の影響下、もはや絶滅危惧種となりつつある「芸術至上主義作曲家」の道を歩み続けることにしたのです。

今の音大生の皆さんには「音大生就活ナビ」のような強力な就職支援情報サイトがあり、生きやすい世の中になったと思います。このサイトによると、音大生の卒業後にたどるコースは、①企業に就職する②演奏家になる③音楽を教える④音楽に携わる、と区分されています。

「芸術至上主義作曲家」の私は、主として③大学非常勤講師とアマオケの指導、不定期に②ピアニスト及び④委嘱作品の作曲、映画音楽の作曲、を選択してきました。そして新型コロナウィルス禍の不況でも、何とか音楽家で生き残っていられるのは、ひとえに『折れにくい柔らかい心』を持ち続けていたからだと思います。柔らかい心とは、広い視野をもち、予断や思い込みがなく、我執を捨てて、変化を恐れず新しい状況に対応する柔軟性と包括力のことであり、芸術上の真実という大目標を達成するために小目標を棄てる勇気でもあります。

皆さんが私と同じように「芸術至上主義」を取ろうと取るまいと、新型コロナ以降の困難な時代を柔らかい心を持って、しなやかに生き抜いてほしいと願ってやみません。

女の子だから音楽をやらせたい さて、音大のみならず、大学時代というのはモラトリアム(社会に出て一人前の人間になる事を猶予されている)期間であり、自己の価値観やアイデンティティーを確立するための準備期間でもあります。この重要な期間に、是非とも一流の芸術作品に触れてほしいと思います。学割をフル活用して、絵画展、オペラ鑑賞、オーケストラの定期演奏会、能、歌舞伎等を積極的に鑑賞されることをお勧めします。

新型コロナ禍の状況下、外出が憚れるようでしたら、レンタルやネットでの名画鑑賞や、読書はいかがでしょうか。(出来れば名画座に入り浸るのをお勧めしたいところですが)

日本が世界に誇る源氏物語は世界最古の長編小説であり、これから世界に羽ばたく日本の若者には自国の文学として是非読んでもらいたいものです。『イギリスはおいしい』の著者でもある林望先生の現代語訳による謹訳 源氏物語(祥文社)全十巻、美しい日本語でスラスラ読めます。拙作、『MABOROSI~オペラ源氏物語』は林望先生の作劇により、光源氏晩年の「御法の帖」、「幻の帖」を題材としています(生き残りのために自己宣伝させて頂きました。笑)。この際、謹訳 源氏物語 全十巻、謹訳 平家物語と共に読破されてみてはいかがでしょう。

MABOROSI15分バージョン

MABOROSI30分バージョン

二宮 玲子(にのみや れいこ) 作曲家 profile

作曲家 二宮 玲子 東京芸術大学作曲科卒業。故・石桁真礼生、故・松村禎三、浦田健次郎の各氏に作曲を師事。故・黛敏郎氏に管弦楽法を師事。在学中に《弦楽四重奏のための前奏曲》が日本音楽コンクールに入選。《Prominence》がシルクロード管弦楽コンクール(テレビ朝日、エネスコ主催)入選。《春に酔う~ソプラノとピアノのための》(ペルシャ古典詩より、岡田恵美子・訳)が第22回日本の音楽展作曲賞受賞、JFC楽譜出版。

89年より現在まで、岩波映画製作所(現在U N Limited)今泉文子監督の音楽スタッフを担当。「科学する心一中谷宇吉郎の世界」(科学技術映画祭・科学長官賞)、「コテッジ・ホスピス」(同・総理大臣賞)、「十歳の君へ命の授業」(日野原重明「いのちの授業」文化庁映画賞・文化記録映画優秀賞)等、多数受賞。

最近ではライフワークのオペラに於いて、日本的な題材を取り扱った作品《MABOROSI~オペラ源氏物語~》(作劇・林望)を作曲。地域に密接した音楽活動の一環として、YAMAHA大人の音楽教室に於いて〈わいわい&サンデーオーケストラ〉を指揮。ピアニストとして、バイオリニスト・安田紀生子とタンゴマドンナを結成。ピアソラ作品を中心に各地のライブコンサートに出演中。

  • 武蔵野音楽大学非常勤講師(作曲理論部)
  • 中央大学法学部非常勤講師 音楽B(一般教養科目)、基礎演習(舞台音楽の研究~オペラ、ミュージカル、歌舞伎への誘い)を担当。

二宮玲子さんに聞いちゃおう!

作曲家の二宮玲子さんにお聞きしたいことなどありましたら、こちらからお問い合わせください>>>

次回の掲載は2021年10月20日ごろを予定しております!
ぜひお楽しみに!

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