さらに
今回で、声楽演奏家・オペラ歌手の池田直樹さんからの音大生にエール!は最終回です!
皆さんへのエールが盛りだくさんな長編をお楽しみくださいませ!
最終号は、みなさんの良く知っている演奏表示について書いてみましょう。
レガート
音を滑らかに繋いで演奏することですね。しかし、楽器では容易ですが、歌では難しいのです。日本人の多くがヨーロッパに行って「レガートに演奏しなさい!」と言われて混乱するのです。「レガートとはなにか」分かっていないのです。
私もミュンヘンで、ハンス・ホッター先生の最初のレッスンで怒鳴られました。「なぜ、1音、1音にアクセントを付けて歌うんだ!」と、「はあ?レガートに歌っているでしょう?アクセントなど付けていません!」と、、、しかし、レガートが分かっていなかったのです。
「レガート」とは、音が繋がっていることではなく、息が繋がっていることです。歌では音をスムーズにクレッシェンド、あるいはデクレッシェンド出来ない事情があります。言葉にダブルの子音があったら「っ」が入って音が切れるでしょう?言葉にはアクセントがあって、アクセントの位置で音は大きくなるでしょう?スムーズに音を増減することを邪魔しているのです。これらを正確に発音して、息を流し続ける!これがレガートです。休符の時も息は流れているのです。歌っている1音は実際には「大きくなったり」「小さくなったり」しながら、呼吸が途切れることなく流れることで、レガートは成立するのです。
装飾音符
楽譜に装飾音符が書かれていたら、例外なく、その書かれた装飾音には「特別な感情」の表現が求められています。どういう感情を意味しているのか考えて下さい。
フェルマータ
記号の付いた音を延ばすのですが、その音の長さは、そこに至るフレーズで決まっているのです。突然、1音だけが伸びるわけではありません。必然としての長さがあるのです。さらに【13】で書いたように長い音には注意!です。伸ばしている経過時間に色を失ってはなりません。
跳躍音の扱い
跳躍音があれば、その上がった音は、前の音より必ずエネルギーが大きいのです。一つの言葉の中の跳躍であれば、上がった音がより大きくては台無しです。作曲家の仕掛けた「罠」です。しかし、跳躍音を小さく歌おうとすると、演奏のエネルギーを失う可能性があります。「跳躍前の音」を大きめに歌うことで、同じ効果を得ることができます。跳躍音が無意味に大きいことを避けられれば、演奏の質が上がります。
同じ言葉の繰り返し
同じ言葉が繰り返されたら、1回目と2回目が同じ表現であってはなりません。思いは広がり音は大きくなるのか?思いは深くなり、減衰するがテンションは高くなるのか、、。
言葉のエネルギーと音楽のエネルギー

作曲家は詩を朗読してメロディーを創ります。優れた作曲家の作品ならば、丁寧に朗読すれば、作品に近づけることに気づくでしょう。言葉はそれ自体でエネルギーを持っていますが、作曲家が感じたエネルギーが、そこに付け加えられています。この言葉のエネルギーと音楽のエネルギーの両方が、伸びやかに躍動するように歌うことが出来れば、あなたの歌はさらに良くなるでしょう。
ここに書いたことは意識することなしに、すべてやっていることです。その上で「強弱法・デュナーミク」と「緩急法・アゴーギク」を考えることで演奏を成立させているのです。
さあ、質の良い「なにか」を獲得するために、多くのことに興味を持って下さい。感受性を磨いて下さい。あなたのお気に入りの1枚の絵はなんですか?大学の図書館にはたくさんの画集があります。たくさん見て下さい。きっと1枚が見つかります。美味しいものを食べて下さい!美味しかったら「おいしい!」と言って作った人を褒めて下さい! オペラを観て下さい。映画を見て下さい。本を読んで下さい。恋をして下さい。歌舞伎、人形浄瑠璃、落語、JAZZ、たくさんの表現に接して下さい!きっとあなたの「なにか」の質を高めてくれます。
最後に「様式感」
これを文章にすることは難しいですね。作曲家の持つ「特性・時代感覚」です。これを理解して歌う、弾くことによって、その作曲家の作品らしくなり、作品の魅力を増すことが可能になります。 たくさんの作曲家を書くにはさらに頁が必要になりますので、シューベルトだけを書きましょう。シューベルトの書いたアクセントは「重たい時間」であると思っています。煙に巻いてお別れです。
【13】~【18】まで書き終わりました。音楽大学で学ぶ皆さんにとって、参考になることが少しでもあれば嬉しいと思っています。読んで頂きありがとうございました。
【17】の写真は、『ドン・キショット』の大盗賊バンディートです。
【18】の写真は、『沈黙』の井上筑後守、『真夏の夢』の妖精の王・オーベロン、『メリー・ウィドー』のツェータ男爵です。
2020年12月26日 東京二期会公演 日生劇場
レハール作曲『メリー・ウィドー』にツェータ男爵役で出演。
https://www.youtube.com/watch?v=wysvNQho4SE&feature=youtu.be